転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


197 わしらの限界と、思いつかなんだアイデア



 ルディーン君が帰った後も、わしとギルマスはルディーン君から教えてもらったクールと言う魔法の魔法陣を構築しておった。

 でじゃ、この魔法はその性質から範囲を決めてその中の空気を冷やすのであろうと思ったわしらは試行錯誤の上、なんとか部屋程度の範囲の空気に影響を及ぼす魔法陣を完成させたのじゃが。

「むむっ、まさかこの様な落とし穴があったとは」

「そうですわね。流石にこれは想定していませんでしたわ」

 何とこの魔法、わしもギルマスも発動させる事ができなかったのじゃ。

「ルディーン君の話しぶりからすると、それ程難易度が高い魔法とは思えなかったがのぉ」

「考えられるとしたら、発音でしょうか」

 そう考えたわしとギルマスは、ルディーン君が口にしたクールと言う言葉を思い出し、なんとかその発音に近くなるよう何度も練習した。

 どうやらその考えは正しかったらしく、そうしているうちにかなり苦労はしたものの何とか発動させる事はできるようにはなったのじゃが、

「発動範囲が狭すぎますわ」

「うむ。ルディーン君はこの魔法で台所を冷やす魔道具の代わりのものを作ると言っておったが、これでは部屋どころか中規模の冷蔵庫の中程度しか冷やす事ができぬ」

 今度はその範囲が少々狭すぎると言う問題が発覚した。

 発音以外に何か問題があるのか、残念な事にわしらが何とか発動できたクールの魔法は、最大でも自分の周りを包む程度の範囲にしかその効果を発揮しなかったのじゃ。

 確かにこれでも周りへともれる冷気によって周りを多少涼しくする事はできるじゃろうが、これでは部屋全体を、それも台所のように火を使うところを冷やすことなど到底できようはずがない。

「発動しておる以上、わしらが使っておる魔法がルディーン君の言うクールと言う魔法で間違いは無いのじゃろう。じゃが想像しておった程の効果を出せぬと言う事は、輪知れそのものに何か足らぬ所があるというところかのぉ」

「ええ。考えられるとすれば魔法を使うためのジョブレベルか魔力そのものがルディーン君が考えているレベルに達していないと言う事なのでしょうね」

 そう話し合いながら、わしらはルディーン君を思い浮かべる。

 かの者はまだ幼いながらも、すでにマジックミサイル一発でクラウンコッコを葬れると言う。

 ならば間違いなくわしやギルマスより、レベルも魔力もはるかに高いのじゃろう。

「しかし、そうなるとわしらではルディーン君の言う部屋を冷やす魔道具は作れぬと言う事になってしまうが……」

「はい。そうなるとこの魔道具に使う魔法陣もルディーン君や、それに順ずるほどの魔法を使えるものでなければ魔石に刻む事ができないと言う事になりますわね」

 もしそうじゃとするとこの魔法陣はあまり意味を成さなくなってしまうじゃろう。

 何せルディーン君の魔法力はすでに冒険者ギルドでもかなり高ランクの、それこそ中央やダンジョン都市で活躍する者たちに匹敵するほどの実力となっているのは間違いない。

 じゃがそのような者たちは総じてすでに大金を手に入れておるじゃろうから、この様な日用品に使うような魔法陣を魔石に刻む仕事など引き受けてはくれぬじゃろうからのぅ。

 何より、そのような物たちへの依頼となると報酬も当然高額になってしまう。

 しかしそれではその魔法陣を使用した魔道具は当然高額になってしまい、貴族や王族以外では殆ど手が出せぬようになってしまう。

「この魔法陣を使った魔道具は、断念しなければならないかもしれませんね」

「うむ。じゃが、当初の予定通り部屋全体を冷やす事は叶わぬかも知れぬが、今のわしらが刻める程度の魔法陣でも使い道はある」

「使い道ですか?」

「うむ。例えば飲み物を冷やす冷蔵庫ならばどうじゃ? 確かに食品を保存するほどの低温にはならぬかも知れぬが、この魔法程度の温度低下でも夏場の涼をとる飲み物くらいならば冷やす事ができるじゃろうて」

 わしらが使った魔法でもそこそこの温度まで冷えておるからのぉ。

 流石に魔道冷蔵庫とまでは行かぬが、これくらいまで温度が下がるのであれば飲み物に限って言えば十分であろう。

「なるほど。確かに氷の魔石を使って作る魔道冷蔵庫と違い、これなら無属性の魔石でも魔道具が作れますから確かにやすく作る事ができますわね」

「うむ。それにこの魔法、先ほど使ってから結構な時間が経過しておるのにまだ効果が持続しておる。こうして見ると、一度発動しただけでも結構な時間持続するようじゃから、魔道具自体の値段だけでなく使用する魔道リキッドの量も魔道冷蔵庫よりかなり少なくなるのではないかな?」

 魔道冷蔵庫の代わりにはならぬが、これだけの利点があるのであれば欲しがる者も多かろう。

「そうですわね。では伯爵、先ほど作った物ではこの魔法は使えませんから、私たちの魔法力に合わせた範囲に効果を限定した魔法陣を再構築しましょう」

「うむ。そうするとしよう」

 こうしてわしとギルマスは、新たな魔法陣を構築する為の話し合いを……。

「お待ちください、旦那様」

 始めようとした所でストールに止められてしまった。

 曰く、もう時間も遅いので続きはまた明日にせよとの事じゃ。

「じゃが、ここまで来て続きはまた明日と言うのは」

「旦那様。仮にバーリマン様をこの館の泊めになると言うのであれば子爵家に使者を送らなければなりません。その際、どのような理由でお泊めするとお伝えするおつもりですか? ここはギルドハウスでは無いですよ?」

「うっ」

 確かに。

 ギルマスは独身じゃからのぉ。いくら本人が一生独身を貫くと申しておっても、他家の館に泊まったとなればどこでどのような話が出てくるか解らぬ。

 その上わしは元フランセン家当主であり元伯爵じゃ。子爵家からすればギルマスをわしに押し付……いや、妾として輿入れさせてつながりを持とうと考えたとておかしくは無い。

「お解かりいただけましたか?」

「うむ。確かに続きはまた明日にでも、錬金術ギルドで行うほうが良さそうじゃな」

 こうして今日はお開きに。


 そして次の日、わしらは朝から錬金術ギルドに集まって研究を再開し、なんとか飲み物を入れられる入れ物の中を冷やせる程度にまで効果範囲を狭めた魔法陣を完成させたのじゃった。

 ところが。

「風を送る魔道具、ですか?」

「なんと、クールの魔法だけで部屋を冷やす訳では無かったのか」

 その日の午後、突如錬金術ギルドに現れたルディーン君にクールの魔法陣の話をしたところ、何と彼はわしとギルマスに対してクールだけでは部屋を冷やす魔道具は作れないと語ったのじゃ。

「うん。あのね、クールの魔法は効果がある場所にある空気を一瞬で冷やす魔法でしょ? だから前と後ろが開いてる箱を作ってその中を魔法陣で冷やすんだ。でね、後は風を送る魔道具を使って空気がその中を通すようにしてあげれば、お部屋のあったかい空気が冷たくなるんだよ」

 ルディーン君はそう言うと、物はためしと実際にその魔道具をわしらの為に作って見せてくれたのじゃ。

 その場で作ったのはあくまで試作品じゃったから魔道リキッドでは無く魔石に魔力を注いで動くものじゃったが、クリエイト魔法で作った筒の中をギルマスが書いた魔法陣を刻んだ魔石で冷やし、片方の入り口から別の魔道具で風を送ってやると確かにひんやりとした空気が出てきおった。

「ほら。こうするとお部屋のお部屋が涼しくなるんだ。でもね、この筒んとこが冷たくなるとお水が出てくるから、もしお部屋を冷やす魔道具を作るなら、そのお水を何とかしなきゃいけないんだよ」

「冷えた水を陶器や銅のカップに入れると周りに水滴が付く、あれじゃな?」

「うん。だからね。この筒はまん丸じゃなくって、下がちょっととんがってるようにしとけばそこから水が落ちるんじゃないかな?」

 どうやら前に氷の魔道具で部屋を涼しくする魔道具を作った時も同じ問題が発生したらしく、ルディーン君は実際に魔道具を作るときの注意点までわしらに指摘してくれたんじゃ。


「この魔法陣が書かれたやつ、ホントに貰ってっていいの?」

「ええ、いいわよ。ルディーン君がクールの魔法を教えてくれなかったら作れなかった魔法陣ですもの。それにこれは初級とは言えないけど、お家で魔法陣のお勉強をする時の役にも立つでしょ?」

「うん。ありがとう!」

 ルディーン君がうちに帰る時にお土産にと、この魔法陣がかかれた羊皮紙をプレゼントすると彼は本当に嬉しそうに笑いながら帰っていった。

 きっと明日にでも早速あの魔法陣を使って新たな魔道具を作る事じゃろうて。

「伯爵。次にルディーン君が来るまでに」

「うむ」

 ルディーン君の事じゃ。話してくれた昨日だけでなく、わしらでは思いつかないような改良をして来るに違いない。

 その時、わしらが何も考えず、言われたままのものを使っておったらちと恥ずかしいからのぉ。

「わしらもこの魔法陣を使った魔道具を研究しておかねばならぬな」

「そうですわね」

 わしとギルマスはそう言って、さて、どのようにしたらルディーン君が驚いてくれるだろうかと話し合うのじゃった。


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